東京地方裁判所 昭和47年(特わ)659号 判決 1977年6月23日
被告人
1 本店所在地
東京都荒川区東尾久四丁目七番一号
株式会社光製作所
(右代表者代表取締役 安岡光雄)
2 本籍
東京都荒川区東尾久四丁目四三四番地
住居
東京都荒川区東尾久四丁目七番一号
会社役員
安岡光雄
昭和一〇年四月一三日生
公判出席検察官
神宮寿雄
主文
被告会社株式会社光製作所を罰金一、〇〇〇万円に、被告人安岡光雄を懲役六月に、それぞれ処する。
ただし、被告人安岡光雄に対し、この裁判確定の日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は、被告会社及び被告人の両名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社株式会社光製作所は、東京都荒川区東尾久四丁目七番一号に本店を置き、金属製椅子の製造並びに販売等を目的とする資本金五、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人安岡光雄は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人安岡は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外して簿外預金を設定するなどして所得を秘匿したうえ
第一 昭和四三年四月一日から同四四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六五、五六〇、四三九円(別紙(一)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、昭和四四年五月三一日東京都荒川区荒川一丁目一番二号所在所轄荒川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四五、九一七、二一九円でこれに対する法人税額が一四、九四二、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の方法により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二一、八一二、〇〇〇円(別紙(三)法人税額計算書参照)と右申告税額との差額六、八六九、三〇〇円を免れ
第二 昭和四四年四月一日から同四五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一二六、一四四、七九六円(別紙(二)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、昭和四五年六月一日前記荒川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六八、五四二、八五六円でこれに対する法人税額が二三、四二四、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の方法により同会社の右事業年度における正規の法人税額四三、五八三、六〇〇円(別紙(三)法人税額計算書参照)と右申告税額との差額二〇、一五八、七〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全般及び公表金額について
一、被告会社登記簿謄本
一、被告人の当公判廷における供述(第二三回公判期日における陳述書、陳述補充書及び第二四回公判期日における答弁書も含む)
一、被告人の検察官に対する供述調書
一、被告人の収税官吏に対する各質問てん末書
一、昭和四四年三月期法人税確定申告書一綴(昭和四八年押七二四号の符四四号)
一、昭和四五年三月期法人税確定申告書一綴(前同押号の符四五)
一、総勘定元帳、44/3期、45/3期分二綴(前同押号の符二、附三)
別紙各修正損益計算書の各勘定科目別の増差金額につき、
<総売上高>
一、甲(一)<10>収税官吏安東仁一郎作成の昭和四七年二月一四日付売上調査書(ただし同調査書中、カクイ商事、川崎産業及び関口商事に関する昭和四五年三月期の売上、入金残高の記載部分は除く。)
カクイ商事への売上除外につき
一、売上補助簿一綴(前同押号の符一四)
一、光製作所仕入帳二綴(前同押号の符五四、符五五)
川崎産業への売上除外につき
一、領収書一枚(前同押号の符二九)
一、川崎八江三の検察官に対する昭和四七年四月二四日付供述調書
関口商事への売上除外につき
一、前掲の売上補助簿一綴(前同押号の符一四)
一、第七回公判調書中の証人関口栄四郎の供述部分
西田(株)への架空売上につき
一、甲(一)<17>収税官吏安東仁一郎作成の昭和四七年二月二七日付「西田株式会社との取引について」と題する調査書
<売上原価(期首製品たな卸高+製品製造原価-期末製品たな卸高)>
一、甲(一)<70>山田広保作成の昭和四六年九月六日付上申書
一、証人山田広保の当公判廷における供述
一、第八回及び第九回公判調書中の証人安岡久五郎の各供述部分
一、第一〇回公判調書中の証人宇佐美広明の供述部分
一、証人安岡久男の当公判廷における供述及び第一一回公判調書中の同証人の供述部分
一、第一一回公判調書中の証人安岡松雄の供述部分
一、第一三回公判調書中の証人大山口雪美の供述部分
一、上代(小売価格)算出表一綴(前回押号の符一)
一、昭和四四年三月期及び昭和四五年三月期分の各法人税確定申告書(前同押号の符四四、符四五)
一、昭和四六年三月期分法人税確定申告書控等一袋(前同押号の符三七)
商品の売上原価につき
一、甲(一)<41>収税官吏草刈章雄作成の昭和四七年二月一四日付調査書(商品仕入高調べ44/3)
一、甲(一)<42>右同人の同日付調査書(商品仕入高調べ45/3)
一、光製作所の申告書控(前同押号の符三〇)
一、仕入明細書(前同押号の符一八)
材料の売上原価につき
一、甲(一)<46>収税官吏福島穣作成の昭和四七年二月九日付「44・3期材料売上調」と題する書面
一、甲(一)<47>検察事務官三ノ上立夫作成の昭和四七年五月一七日付捜査報告書(45/3期材料売上高について)
<給料手当>及び<認定利息>
一、甲(一)<58>収税官吏安東仁一郎作成の昭和四七年二月一七日付役員貸付金残高調査書
一、甲(一)<59>右同仮受金調査書
<減価償却費(45/3期)>
一、甲(一)<56>荒川税務署長作成の証明書
一、昭和四五年三月期分法人税確定申告書(前同押号の符四五)
<受取利息>
一、甲(一)<57>収税官吏安東仁一郎作成の昭和四七年三月一五日付預金残高および預金利息調査書
<雑収入>
一、普通預金元帳(前同押号の符三五)
一、乙<13>被告人の収税官吏に対する昭和四七年二月一〇日付質問てん末書(問四〇の部分)
一、乙<14>被告人の収税官吏に対する昭和四七年一月二八日付質問てん末書(問四〇の部分)
<土地資産売却益(44/3期)>
一、甲(一)<62>収税官吏安東仁一郎作成の昭和四七年二月一六日付土地売却益調査書
<支払利息、割引料(45/3期)>
一、甲(一)<64>収税官吏安東仁一郎作成の昭和四七年二月一日付借入金および支払利息調査書
<価格変動準備金の戻入・繰入>
一、甲(一)<56>荒川税務署長作成の証明書
一、昭和四四年三月期分及び昭和四五年三月期分の各法人税確定申告書(前同押号の符四四、符四五)
<支払手数料(45/3期)>
一、甲(一)<65>海老沢礼子作成の上申書
一、甲(一)<66>森田清治作成の上申書
一、乙<15>被告人の収税官吏に対する昭和四七年二月一七日付質問てん末書(問一六の部分)
<その他経費>
一、乙<22>被告人作成の昭和四七年三月一日付上申書
一、甲(一)<67>安岡久男作成の昭和四七年二月一二日付上申書
(争点に対する判断)
本件において争いのあるのは、検察官が冒頭陳述で修正損益計算書として主張するもののうち、(一)総売上高のうち売上計上洩れ額の一部、(二)期首、期末のたな卸高、製品製造原価の勘定から導かれる売上原価、(三)青色申告承認の取消に伴つて生ずる取消益の諸勘定のみであり、その他の科目について検察官が逋脱増減額として主張する金額に争いはない。そこで、以下において順次右争いのある点についての当裁判所の判断を示すこととする。
一 総売上高のうち売上計上洩れについて
(一) 昭和四四年三月期分の売上計上洩れ額六〇、六一六、五六九円の在存については、検察官及び被告人、弁護人の間に争いはない。
(二) 昭和四五年三月期分の売上計上洩れ額であるとして検察官が主張する一五二、四七〇、八二一円のうち、被告人弁護人は
(1) (株)カクイ商事に対する売上計上洩れ三一、〇二二、〇五五円のうち
三、八〇四、二一四円
(2) 川崎産業(株)に対する売上計上洩れ額の全部である
三、七六五、八三五円
(3) (有)関口商事に対する売上計上洩れ額の全部である
一五、九一〇、九八二円
についてそれが売上計上洩れでないことを争つているのでこれについて検討する。
1 (株)カクイ商事分………三、八〇四、二一四円について、
被告会社が株式会社カクイ商事に対して、昭和四五年三月期中において合計三一、〇二二、〇五五円の簿外売上げをなしていた事実は、売上補助簿(符一四)によつて判明する。
ところで被告人、弁護人は、右の事実を一応認めながら、カクイ商事に対する売掛金が昭和四五年に入つて滞ることとなり同年一月に多量の返品を受けたのであるが、まだ三、八〇四、二一四円の売掛が残る状態であつたのでこの分を全額値引きすることとしたものであるから、右値引きした三、八〇四、二一四円はカクイ商事に対する売上計上洩れ額から控除すべきであると主張するのである。
被告人の検察官に対する供述調書によると右の値引に関し、「私としてはその後別にこの三八〇万円余りを請求したことはなく、現金取引を始める時にそれを切り捨ててやるといつておりますのでこの分は値引として計算されるべきだと思います」との供述記載があり、カクイ商事の代表者であつた証人藺牟田健も、「昭和四五年の初めごろ四〇〇万円前後の買掛金債務の免除をして貰つた」旨供述しているのであるが、右カクイ商事において記帳保管していた仕入帳(符五四、符五五)の記載からは右値引乃至債務免除があつたことを窺わしめるような記載は認められず、むしろ被告会社の前記売上補助簿(符一四)によれば、昭和四五年三月二〇日現在においてカクイ商事に対して売掛金の残高として三、八〇四、二一四円がある旨の記載が認められるのであつて、これらを綜合考察するとき、被告人と藺牟田との間において、昭和四五年初め頃売掛残金についてその支払方法の話しがあつたであろうことは推認されうるけれども、だからといつて昭和四五年三月期中において被告会社がカクイ商事に対して有していた売掛残金三、八〇四、二一四円について、これを債務免除したとか或いは右同額相当を売掛代金からの値引き扱いとしたものであるということまでは認め難いのであり、結局右弁護人らの主張はそのままこれを採用することは出来ない。
2 川崎産業(株)分………三、七六五、八三五円について
被告会社が川崎産業株式会社に対して昭和四五年三月期中において三、七六五、八三五円の簿外売上げをなしていた事実は、領収書(符二九)によつて判明する。
ところで、被告人、弁護人は右の事実を一応認めながら、右の売上げ額は、川崎産業が昭和四五年三月頃事実上倒産した際、同社から商品であるジユータンで返品を受け同期中に整理済のものであるから川崎産業に対する売上計上洩れ額とはいえないと主張する。
被告人は当公判廷において右主張にそう供述(陳述書)をし、川崎産業の代表者である証人川崎八江三も、被告会社からの仕入額については昭和四五年三月二〇日頃「商品で返し、決済しなくてもいいようにしていただいた」旨被告人の右供述に符合する趣旨の供述をする。しかしながら被告人は、国税局の調査、検察官の取調べの段階においては、川崎産業への売上げが全額商品で返品されたといつた事情は全く述べてはおらなかつたし、川崎八江三も検察官に対する供述調書において、「昭和四五年三月末における光製作所からの債務としてはジユータンの買掛金の三七六万円余りと四四年の一〇月ころから四五年三月中旬迄の間に少しづつ借りた合計約一二〇〇万円と三月二五日の二、五〇〇万円、総計約四〇〇〇万円というところです」と述べて公判廷における供述の内容と異つて昭和四五年三月末の時点における被告会社からの買掛債務の存在を明確に認めているのであつてこれらの点を考慮すると、被告人及び証人川崎らの前記公判廷における供述はにわかに措信し難く、したがつて川崎産業に対する昭和四五年三月期中の簿外売上げが同期中において全額商品で返品されたとする右弁護人らの主張は採ることが出来ない。
3 有限会社関口商事分………一五、九一〇、九八二円について
被告会社が有限会社関口商事に対して昭和四五年三月期中において合計二六、五一〇、九八二円の簿外売上げをなしていた事実は売上補助簿(符一四)によつて判明するところ、検察官は、同期中に関口商事から一〇、六〇〇、〇〇〇円相当の商品の返品の事実が認められるとしてこれを控除した差額一五、九一〇、九八二円が売上計上洩れ額であると主張する。
ところで、被告人、弁護人は、関口商事は営業不振となつて昭和四四年一二月末に、被告人と関口商事の社長との間で同商事の負債を整理することとし、(イ)在庫の材料一、〇六〇万円を被告会社に返品する、(ロ)機械類その他の在庫を被告会社又はその指定した川崎産業、遠藤商工に返品又は送付するとの約定で話しができ関口商事の負債全額について整理済となつたから結局同商事に対しては昭和四五年三月期中に売上計上洩れはないこととなつた旨主張する。
関口商事の代表者である証人関口栄次郎の供述によると、関口は昭和四四年一二月に被告人と話し合い二五〇〇~二六〇〇万円全部につき、材料を返すこととし、昭和四五年二月ころまでに、一、〇六〇万円相当のレザー布地等の材料を被告会社へ返品したのであるが、その余の返品については金額的には判然とはしないけれども同年四月乃至五月の間に返品したというのであるが、一方、被告会社の売上補助簿(符一四)によると昭和四五年三月三〇日現在において被告会社は関口商事に一八、二二二、〇九七円の売掛金の残額を有している旨の記載が認められるのであつて、他に同年三月末の時点においてそれら売掛債権について全額返品扱いとして処理したと認めるに足る十分の証拠もない以上被告会社が関口商事に対してなした昭和四五年三月期中の簿外売上げが同期中に全額返品となつたという弁護人らの主張はそのまま全面的に採用することはできないというべきであつて、結局、検察官が同期中の返品であると認めて控除したその余の残額である一五、九一〇、九八二円は同期中の簿外売上げの計上洩れであると認めるのが相当である。
(三) 以上のとおりであるから、売上計上洩れについての被告人、弁護人の主張はいずれもこれを採用することができず、結局、被告会社の総売上高は本件係争の両年度とも検察官主張の総売上額が存したものと認めることが出来るというべく、この総売上高から架空売上分、売上値引戻り高を差引いた純売上高及びその製品、材料、商品別による内訳は別紙(四)純売上高算出表のとおりである。
二 売上原価について
(一) 製造販売業におけるたな卸、仕入、売上原価との関係は
期首たな卸高+当期仕入(労務費、製造経費を含む)=売上原価+期末たな卸高
という等式で説明ができるものである。そして純売上高から売上原価を差引いたものが売上総利益(荒利益)である。
本件において検察官が、被告会社の昭和四四年三月期及び同四五年三月期における純売上高、売上原価、売上総利益として主張する額は
<省略>
であり、
これに対し、弁護人が主張する額は
<省略>
である。
ところで純売上高については昭和四四年三月期分については検察官主張の額について弁護人もこれを争わないところであり、昭和四五年三月期分について一部争いはあるが、これについては前記「総売上高のうち売上の計上洩れについて」において判断したとおりであつて、検察官が主張する売上計上洩れについてそのすべてが売上高として認定できるのであるから、ここでは売上原価を如何なる方法でいくらと認定できるかが問題となるのであるから、以下これについて判断することとする。
(二) 検察官の主張(冒頭陳述補充書添付のくみかえ修正損益計算書)によると、被告会社の係争年度の各期首たな卸高、当期仕入、当期労務費、当期経費、期末たな卸高がいずれも確定できるものとして修正の損益の計算が組まれているのである。そして期首、期末のたな卸高及び当期仕入(材料のほか労務費、製造経費も含めて)の額が確定できるのであれば
売上原価=期首たな卸高+当期仕入(労務費、経費を含む)-期末たな卸高
の算式に基づいて売上原価が算出されるのは当然の事由である。しかし、本件被告会社にあつては、各期の仕入、労務費、製造経費の額はその公表帳簿によつて判明するけれども、たな卸については簿外のものが相当にあつたためその公表額は真実のたな卸額ではなかつたのであり、昭和四六年三月期末の本社分たな卸額は調査がなされているけれども、それ以前の本件係争年度における期首期末たな卸についてそれを正確に調査したことはないのであり、他に係争年度分の期首、期末のたな卸額を確定すべき確たる資料は存しないのであつて、この点について検察官、弁護人ともに異論はないのである。
このため検察官が前記冒頭陳述補充書添付のくみかえ修正損益計算書において期首たな卸高、期末たな卸高の各修正金額として主張する額も、それを直接資料から確定したものではなく、次のような方法によつて算出した額である。
すなわち、被告会社の大阪支店分にあつては係争年度のたな卸高はすべて公表額のとおりであつて簿外たな卸はない、との前提に立つたうえで、被告会社の本社分の係争年度のたな卸高の確定としては、売上高に差益率を乗じて売上総利益を導き、そこから返品損失を控除して修正利益を出したうえ、売上高から右修正利益を差し引くことによつて売上原価を求めるという手法により、そこで求められた売上原価を基にして、
期首たな卸高=期末たな卸高+売上原価-当期仕入(労務費、経費を含む)
の算式により、確定額として把握できる昭和四六年三月期の期末のたな卸高及び右の売上原価、当期仕入額を右算式に代入することによつて昭和四六年三月期の期首たな卸高(これは昭和四五年三月期の期末たな卸高でもある)を求めるといつた方法によつて、順次昭和四五年三月期分、昭和四四年三月期分という具合に遡及することによつてそれら各期の被告会社本社分のたな卸高を算出し(前記冒頭陳述補充書添付の別紙A、B、Cの各表参照)、このようにして求められた本社分たな卸高と前記公表どおりとした大阪支店分のたな卸高を合算して、これを被告会社のたな卸高であるとしているのである。
しかしながら右の検察官の用いたたな卸額算出方法についてはつぎの二点において疑問がある。すなわち第一点は、大阪支店における公表のたな卸高が正しいとする点であつて、大阪支店長である証人安岡久男の供述(第一一回、第二二回公判)によると「大阪支店においては本件係争年度において正確なたな卸高の調査が行われてはおらず、荒利益を九%とすることによつて在庫(たな卸高)を一応出していたといつた具合であつた」というのであるから、大阪支店の公表たな卸高の数値をもつてそれが真実のたな卸額であるとすることは到底出来ないのであり、第二点は、本社分のたな卸高を求めるために用いた差益率(大阪売上分五・〇二六%、代理店売上分一八・三八%としている)の合理性についてであつて、検察官の昭和四八年五月一一日付釈明によると、右の差益率の算出は、製品の小売価格(上代)を一〇〇とした場合においてその製造原価が四五、大阪支店への卸値が四七・五、代理店への卸値が五五・一四であるとして計算したものであるというところ、それら数値のうち大阪支店、代理店への卸値については山田広保作成の昭和四六年九月六日付上申書の記載内容に準拠したものと思われるけれども製造原価を四五とした根拠は不明である(同上申書では四五・二六となつているし、安岡久五郎の検察官に対する供述調書及び被告人の当公判廷における供述において製品の原価を四五と述べているのは、卸値を五五とした場合の、あくまでも概数としての相対的数値にすぎない。)といわざるをえないことと、それに加えて差益率乃至原価率を算出するために一般的に考慮されるべき製品製造のための部品の不足、製品の製造販売過程において通常生ずるであろう、いわゆるロス等についても、これらを製品の製造販売業における売上原価要素としてどのようにしてどの程度の考慮がなされているのか明らかでないことである。すなわち検察官主張の差益率自体についてその算出の根拠が明確でなく、他に考慮されるべき要素についての考慮した形跡が認められないとするならば、その差益率の合理性について充分の信頼を置くことは出来ないのであつて、したがつて右のような差益率を適用して導き出された売上原価及びその売上原価をもとにして導かれた期首、期末のたな卸高の数値について、それをそのまま正しい数額であると認めることは出来ないからである。
このため被告会社における係争年度の実際の売上原価の確定は検察官の主張する如く、大阪支店分のたな卸額の公表額は正確であるとし、本社分についてのたな卸額を前記のような差益率を適用して導き出したうえこれらを合算して期首、期末のたな卸高を求めて売上原価を確定するという方法ではなく、むしろ弁護人の主張するように売上原価を構成すべき各要素を各別に検討したうえ、その総計として売上原価を求める方法が考慮されてよいのである。
(三) 売上原価を確定すべき方法
本件において、被告会社の純売上金額は前記「総売上高のうち売上計上洩れについて」において述べたとおりその数額を確定できるものであり、その金額も自社製品の売上、材料の売上、商品の売上に区分して把握できる(別紙(四)純売上高算出表参照、その区分されるべき数額については検察官、弁護人間に争いはない)のであるところ、そのうち材料の売上は、下請工場に対する有償仕切りのものであつてその売上については売上利益は見込まれていないから売上金額がそのまま売上原価とみてよいし(弁護人弁論要旨二五丁表及び検察官冒頭陳述補充書別表A参照)、商品の売上については、弁護人において検察官主張の商品売上原価の額(検察官冒頭陳述補充書別表E)を争わない(弁護人の弁論要旨二四丁裏)ところであるから、要するに問題としては被告会社のいわゆる自社製品についての製品製造原価、労務費、製造経費及びロス、返品損失として売上原価の要素となるべきものをどのように把握認定するかにある。
1 製品製造原価(材料費、組立加工費)
本件係争年度において製品の製造原価を直接に求めるに足る資料はないが、昭和四六年三月期の製品の小売価格(上代)を決める際に被告会社において使用した上代(小売価格)算出表(符一、以下これを単に「赤ノート」という)が存在し、これによると製品の小売価格とその原価(材料費、組立加工賃)の額が一応判明するのであり、係争年度においても製品の小売価格とその原価との割合は昭和四六年三月期のそれとほぼ同一であつたものとみてよい(証人安岡久五郎及び被告人の供述)から、本件係争年度分についても右「赤ノート」をその根拠として用いて差支えない。
そこで右「赤ノート」によつて製品の小売価格とその原価(材料費、組立加工賃)の割合をみるに、昭和四六年九月六日付山田広保作成の上申書によると、「赤ノート」の記載洩れを補正し、被告会社の主力商品二八品目を対象として調査したところによると、小売価格を一〇〇とした場合における一個当りの材料費、組立加工費としての原価は四五・二六であることが判明する。また同上申書によつて被告会社の代理店への卸値は小売価格を一〇〇とするとき五五・一四であつたことも判明する。そして被告会社の売上げはすべて代理店への卸売りであつたから、被告会社の製品売上額に占める右の製造原価の額は
<省略>
という算式によつてこれを求めることが出来るのである。
2 労務費、製造経費、外注加工賃
「赤ノート」の作成責任者である証人安岡久五郎の供述によると、「赤ノート」に記載の製品の原価の記載は、製品の材料費と製品を下請先で組み立てさせることに伴う組立費等の外注加工賃のみであつて、被告会社において製品を製造するために使われた労務費及び製品製造のための電力費、燃料費等の製造経費は含まれていないというのであり、そのことは「赤ノート」の記載の内容及び前記山田広保作成名義の上申書の記載によつても首肯しうるから、被告会社が係争年度の各期において公表の製造原価報告書において当期労務費及び当期経費として計上しているものは売上原価の要素として前記製品製造原価のほかに別個に計上されなければならない。
ただ当期経費のうち外注加工賃については、「赤ノート」において組立代等の名目において既に製品製造原価の中に組み込まれているのであるわら、右製造原価報告書中の当期労務費、当期経費をそのまま売上原価の要素であるとして計上したならば、外注加工賃の額についてはこれを減算しておかねばならない訳である。
なお、右の如く労務費及び製造経費を製造原価報告書の公表額のとおり売上原価の要素として認めることは、検察官の冒頭陳述補充書によつて明らかにされた、くみかえ修正損益計算書のうち<6>工賃乃至<8>雑給が労務費であり、<7>外注加工賃乃至<19>工場経費が製造経費であるが、それらがそのまま修正金額欄に記載されていることによつて、検察官もそれを肯定しているものといえよう。
3 社内外ロス
いわゆるロスについてであるが、被告人の当公判廷における供述、同人の検察官に対する供述調書及び証人安岡久五郎の供述によると被告会社において製造販売するにあたり組立ロス、原反ロス、裁断ロス、入出庫積ロス、試作費等と呼ぶべき原材料の損失が生ずるという。本来製造販売業にあつて、その製造販売の過程においていくらかのロスの発生が存在することも否定できないところであるが、このような原材料、製品等の損失は期首、期末のたな卸が正確に把握されている限り、たな卸に吸収されるべき性質のものであるが、本件被告会社の如く係争年度における実際のたな卸高が把握されず、他に正確なたな卸高を確定すべき資料がないのであるから、右にいう損失乃至ロスを独自に売上原価の要素として考慮せねばならない。しかし右にいうロスのうち被告人らが試作費と呼んでいるロスについては「赤ノート」に基づいて作成された前記山田広保作成の前記上申書の製品原価計算書において一製品当たり二〇円宛が製品原価に含まれて計算されているから、ここではその余のロスについて考慮すべきところ被告人の当公判廷における供述(第二三回公判)及び証人安岡久五郎の供述(第九回公判)によるとそれら社内外ロスについてその発生量は一〇〇個につき一個半であるというのであつて、他に、これを否定すべき格別の証拠はないから、被告会社の製品売上額に占める右の社内外ロスとして認める額は
<省略>
という算式によりこれを求めるのが相当である。
4 返品損失
売上原価の要素として考慮すべき返品損失について、被告人の当公判廷における供述、証人安岡松雄の供述によると、返品される製品の二〇%が再生されうるものとみられ、残り八〇%は損失となるというのであり、前記山田広保の上申書によると、被公会社本社における返品額は総売上額の約一・一%程度と見られることが認められる。すると被告会社の製品売上額に占める返品損失として認めるべき額は
<省略>
の算式によりこれを求めるのが相当である。
5 弁護人主帳のその他の売上原価要素について
(イ) 弁護人は、「赤ノート」のみに基づいて製品製造原価を四四・五一九であると算出したうえ、昭和四六年三月期の被告会社本社における梱包資材の仕入総額は九九、一一四、一一円であるのに「赤ノート」のみによる梱包資材の記載から認められる梱包資材の額はこれを遙に下廻る(第九回公判における証人安岡久五郎の供述)から、「赤ノート」による製造原価のほかに梱包費の記載洩れ分としてこれを別個に、売上原価の要素として考慮されるべきであると主張する。
しかし乍ら、当裁判所は、「赤ノート」を基礎にしたうえ、材料費等の記載洩れを補正した前記山田広保の上申書に基づいて製造原価を四五・二六と採用したのであり、右上申書によつて梱包資材費を計算してみるに、それは検察官の補充論告要旨添付の別表2によつても明らかな如くそこで算出される梱包資材費としては一一二、九四七、二九六円となるのであり、この数値は被告会社の実際の前記仕入額を遙かに上廻り、むしろ被告会社によつて有利な製造原価となつていることを物語るから右の主張は採らない。
(ロ) また弁護人は、昭和四六年三月期の被告会社本社におけるビス類及び糸等のパーツの仕入総額は二五、三一二、九四八円であるところ「赤ノート」のみによるそれらはこれを遙かに下廻る(同じく第九回公判における証人安岡久五郎の供述)から、「赤ノート」に含まれないパーツ分として別個にこれを売上原価の要素として考慮されるべきであると主張する。
しかし、梱包資材について述べたと同じく山田の前記上申書によつてパーツ費を計算してみるに、それは検察官の補充論告要旨添付の別表3に明らかな如く、その顔は二二、四九一、二四四円となるのであり、被告会社の実際の前記仕入額より二、八二一、七〇三円不足するのではあるけれども、この程度の不足は、前記梱包資材においては遙かに余計に計上していることなどと併せ勘案するとき、この程度の差異を無視しても全体としての製品製造原価としては被告会社に不利とはならないというべく、したがつて弁護人の主張は採らない。
6 大阪支店の問題
ところで売上原価として右1乃至5において述べたところは、主として被告会社の本社分についての計算としてのものであつたのであるが、証人安岡久男の供述によると、大阪支店における売上の約八五%は本社から仕入れた本社の製品であり残り約一五%について大阪支店で製造したものであるが、それら製品の製造販売の態様は、本社におけるそれと大差のないものであつたことが認められるうえ、大阪支店関係分においても売上の除外があつたことが認められるし、係争年度において正確な期首、期末のたな卸がなされていたものではなかつたというのであることからすると被告会社の売上総利益を求めるための売上原価の計算の方法として、本社分と大阪支店分を別個に計算する実益はないというべく、むしろ本社分と大阪支店分を併せたところの売上金額を基にして、前記の売上原価の算出のための計算方法を用いるのを相当と解する。
7 以上において売上原価の要素として考慮すべきものを一覧表にすると別紙(五)売上原価・売上総利益算出表のとおりであり
昭和四四年三月期の
売上原価は 一、三六三、八六三、七〇五円
売上総利益は 一六六、七八四、七三〇円
昭和四五年三月期の
売上原価は 一、七九四、六〇三、三二五円
売上総利益は 二一四、八九五、八九八円
であるというべきである。
三 青色申告承認の取消に伴う取消益について
弁護人は、被告会社が昭和四三年三月期分以降について青色申告書提出の承認が取消されたことに伴つて生じることとなる価格準備金繰入の否認分、減価償却費の否認分について、これは逋脱所得を構成するものではないと主張する。
しかしながら、本件においては被告会社の代表者である被告人がその法人税を免れる目的で売上額の一部を除外し簿外預金を蓄積するなどして所得を逋脱していたことは明白であつて、かかる行為は青色申告承認の制度とは根本的に相容れないもであるから、かかる逋脱行為をする以上、青色申告の承認は取消され、青色申告承認による税法上の特典を享受する余地のないことは、被告人において当然にあらかじめ認識していたものと認められるから、被告会社の本件係争年度について青色申告書提出の承認が取消されていることの明らかな本件においては、青色申告承認による税法上の特典の否認によるいわゆる取消益も逋脱所得を構成するものと解するのが相当である(最高裁第二小法廷昭和四九年九月二〇日判決参照)。したがつてこれと見解を異にする弁護人の主張は採らない。
(法令の適用)
被告会社につき
判示各所為について法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項、刑法四五条前段、四八条二項、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条。
被告人につき
判示所為について法人税法一五九条一項(懲役刑選択)、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第二の罪の刑に加重)、二五条一項、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 中村勲)
別紙(一) 修正損益計算書
株式会社光製作所
自 昭和43年4月1日
至 昭和44年3月31日
No.1
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
株式会社光製作所
自 昭和44年4月1日
至 昭和45年3月31日
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
別紙(三)
法人税額計算書
株式会社光製作所
<省略>
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軽減税率適用所得金額の計算
<省略>
算出表
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別紙(四)
純売上額
<省略>
上総利益算出表
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別紙(五)
売上原価・売
<省略>